現代の日本人は性欲と気力を失いつつあります。「国民総セックスレス時代」が叫ばれる今、トイズマガジン編集部は「性欲アップ講座」を開設。性のプロフェッショナルをお迎えし、性に関する悩みや不安の解消を提案します。
今回、ご教授いただくのは、「自立支援センター むく」の理事長である木村利信さん。最新のテクノロジーと性を融合して、障がい者を支援。あらゆるコンテンツの制作やテクノロジーの開発、 VR関係のシステムの開発も行なっています。第一回では、木村さんがなぜ福祉の立場から性に関わることになったのかお聞かせいただきました。

――私が「「自立支援センター むく」」を知ったのは、フェチフェス11の取材の時です。障がい者の支援を性の観点から行っているという姿勢に、非常に感銘を受けまして。

自立支援センター むく 理事長・木村利信(以下、木村):ありがとうございます。

――あの時は、センターの制作したフェチ系の映像作品などを売ってましたよね。いろいろ詳しくお聞きしたいことがあるのですが、まずは「自立支援センター むく」の成り立ちについて教えていただけますか?

木村:もともとは、2000年にボランティア団体として発足したのが始まりですね。障がい者の皆さんが、インターネットを使うことによってリハビリや、社会への繋がりを持てるようにと思い、設立しました。

――最初はボランティア団体だったんですか!

木村:その後、東京都の福祉施設の認可をとり、現在の大きさになりました。しかし、当時の資金は手持ちにある36万円のみ。これも、事務所の敷金・礼金・家賃を払ってゼロになりました。設立1ヶ月目にして翌月の家賃が払えなくなったけれど、やることに意義があると考えて決行した形ですね。

――どう考えても行き当たりばったりですが、スゴイ。強い信念がなければできない行動ですよね。

木村:もちろん最初は職員もなく、ほんの数名のボランティアの協力で始めたんですよ。当時は、誰に聞いても福祉で儲かるわけがないと反対されてましたね。まあ、結果的には軌道に乗せることはできたんですが。

――そこから、性に関する支援を行うようになった経緯は?

木村:1年ほど前でしょうか。とある福祉相談センターから相談が舞い込んだんです。そのセンターを利用している車イスの方の自宅にヘルパーを派遣したところ、そこに知らない女の人がいたと。たまに他のセンターのヘルパーとバッティングすることはあるけれど、その女性の服装がヘルパーにしてはちょっとおかしい。なんと、その女性はデリヘルのお姉さんだったそうです。車イスの方は、ヘルパーを頼んだのをすっかり忘れていたそうで。

――それはなかなかセンセーショナルな……。それが問題になって、木村さんが相談されたということですか?

木村:そうですね。まず問題の一点は、こういうバッティングが続くとセンターとしても支援がしづらくなってしまうこと。もう一点が、その車イスの方は生活保護を受けていたというところなんです。生活保護費を使ってデリヘルを呼ぶのはちょっとまずいぞ、と。

――なるほど。たまの娯楽の一環として認められてもいいような気はするのですが……。

木村:まあ、それは呼ぶ回数の問題でしょうね。とはいえ、その車イスの方は性欲が強くて、どうしてもガマンができないと。そこで、インターネットやPCに強いことが知られていた「むく」に白羽の矢を立てたようです。我々の持つテクノロジーで障がい者の性の問題をどうにかできないかと言われました。

――それって、なかなか重い相談ですよね……。テクノロジーでどうにかしろと言われても。

木村:とりあえず、真っ先に考えたのはどうやったら月に何回もデリヘルを呼ばずに障がい者の性欲を発散できるのかということ。テクノロジーを絡めないでデリヘルの経営をするという案も生まれました。障がい者割引を使うみたいな形で支援できればと思ったんです。しかしながら、当時は何一つそのジャンルについてわからなくて断念しました。

――一足飛びでど真ん中に手を出しかけてたんですね(笑)。社会福祉の立場から経営するデリヘル……それはそれで、意外と盛り上がった可能性もありますが。

木村:研究はしたんですよ。京都にある一般社団法人ホワイトハンズでは女性を派遣してビニール手袋をして男性の性欲を発散させる方式をとってまして、その方向でも模索はしました。あくまでも障がい者支援という立ち位置なんですが、私がやるならそれはちょっと中途半端すぎるかな、と。それなら普通に店をやった方が堂々としてるような気がして。

――結果的には、コンテンツ制作やシステムの開発といった方向に向かったわけですよね。

木村:はい。テクノロジーを使う形で考えた結果「映像を見ながらアダルトグッズで処理をする」という方向でまとまりました。ただ、まずもって手にマヒがある人というのは、PCのキーボードの操作をしてアダルト動画を見ることが難しいわけですよ。そこで、最初に行ったのは、マウスやキーボードを使わないで瞳孔のセンサーで動画や写真が動かせる「視点入力センサー」というシステムの開発です。

――えっ、それを「むく」で開発したんですか?

木村:はい。このシステムは医療のジャンルからも評価されて、病院でも使用されています。

――それを聞くだけでも機能性の高さが伺えますね。でも、視覚で興奮を促した、その後の処理についてはどのように対処するですか?

木村:それが問題だったんですよ。手にマヒがある人はアダルトグッズを使うことが難しい。我々にはシリコンなどの知識も技術もない。結局、その部分はアダルトグッズのメーカーにお願いしようと決めたんですね。そしたらちょうどその時、TENGAさんがTENGAヘルスケアというものを作って「医療・教育・福祉に参入します」と。これはもう我々の分野だ! と思って、すぐに問い合わせさせてもらったんです。実際に本社に伺い、我々の作っている映像や今後やりたいことをお話させてもらい、協力関係を結びましょうと。

――なるほど、TENGA! それで事務所内にたくさんのTENGAが並んでいたんですね。

木村:ただ、TENGAさんのパッケージって、そのままだとツルツルしていて滑りやすいんですよね。手にマヒがあると、かなり掴みづらい。だから、アタッチメントをつけて落ちないように……。これ、ホームセンターに行って材料を買って、自分で作ったんですよ。

――すごい! マジックテープで固定してあって、手に力がなくても動かせるようになってる!

木村:まだ改良の余地はありますけどね。また、女性でもアダルトグッズを使いたい方はいらっしゃると思うので、irohaも同じようにアタッチメントで当てることができるようにしています。マジックテープで簡単にくっつくので、床に落とした時に取りやすいんです。

――障がい者の方が使う上での盲点を上手くカバーされてるんですね。

次回は、コンテンツ制作へのこだわりについてお話を伺います。

NPO法人 自立支援センター むく

2000年に設立された障がい者の支援活動を行っているNPO法人。2016年より、障がい者への性に関する支援に本格的に着手。最新のテクノロジーと性を融合し、コンテンツの制作やテクノロジーの開発、 VR関係のシステムの開発も行なっている。