神田が向かったのは元彼女の家。女は異業種交流会だかで会った女で、顔も体もそこそこだが、とにかくテンションも股もゆるい。別れた今も、こうして自分を迎えてくれる。
「久しぶり~急にどうしたの~」
胸元がユルユルのTシャツと、短いハーフパンツで迎え入れられる。これが誘ってないというなら、いつ誘っているというのか。神田は会話するのも面倒で、部屋に入ると女をぎゅっと抱きしめて体を弄った。愛のことを思い浮かべ、神田は既にギンギンになっていた。
女は、自分と会ったことで神田が興奮したと思っているようで、神田の指が乳首や背中を這うたびに「ああっ」と大袈裟に喘いだ。ベッドに女を押し倒し、覆いかぶさる。

「あれ、まだある?」女に訊いた。
「えっ、あれー、あるよぉ」

女は恥ずかしそうに、棚の一番下の引き出しからオモチャを取り出した。神田が以前プレゼントして、セックスの時に使っていたアナルビーズだ。
神田はセックスへの向上心が強く、何でも試してみたいと考えており、アナルプレイはかねてからの夢だった。しかし、アナルを捧げてくれる人はほとんどいない。それを快諾してくれたのが、この女だ。
神田が女の部屋に置いておいた大ボトルのローションをオモチャにまんべんなくかけて、女のアナルにゆっくり挿れる。最初は全然入らない。「痛いぅぅ」と女が呻くが、乳首やクリを指で愛撫していると、感覚が麻痺してきたのかヌルリとオモチャがアナルに吸い込まれた。オモチャをゆっくり動かしながら愛撫をすると、女は気持ちよさそうに喘いだ。そうしてオモチャでならして引き抜くと、神田はゴムをつけた自分の陰茎を女のアナルに挿れてゆっくりピストンした。アナルプレイは、女曰く「たまらない」のだそう。この女のまんこは緩めだが、アナルはとにかくきつくて伸縮性もある。
まんこに挿れたわけではないから、正式なセックスと言わないだろ? 俺の行動はヤリチンではない。むしろ、愛に酷い扱いをしないようにコントロールした、愛に向けての純潔な恋心の証だ。

神田はそうして自身の性欲とバランスをとりながら、また愛とジャズバーに行く約束を取り付けた。正直、ジャズに何の興味もなく演奏もままならない神田には退屈でしか無かったが、愛と会う強力な口実だった。
神田は、大晦日の数日前にも愛と会った。夕方から晩まで楽しんで、愛を駅に送った。愛は今日、このまま新幹線に乗って実家に一時帰省するらしい。年が明ければまた会えるのに、神田はひどく寂しかった。愛も普段より大人しい気がして、同じ気持ちなんじゃないかなと思えた。二人は既に、仕事のこともプライベートのことも相談できる良い理解者になっていた。

車中、神田はたまらなく切なくなり、そっと愛の手の甲を触った。愛は、びくっとした。照れているのだろうか、そういうところも可愛い。
「手、すべすべだな」
「そんなことないですよ」
「また休み明けにならないと会えないんだねー」
「そうですねー」
「気をつけて帰ってね」
「はい」

胸が締め付けられて、神田は言葉を続けた。
「俺さ、愛ちゃんのこと好きになっちゃいそうだよ」
「いやいやいや、そんな~。やめてくださいよ」
「本気本気」

神田は手をぎゅっと握った。愛は男を知らないのだろうか、どうしていいか分からないといった感じで、顔を真っ赤にしてはにかんだ。
駅に着き、「ありがとうございました」とこちらを向いた愛の瞳は色っぽく潤んでいた。神田は愛の瞳に釘付けになって、勢いで頬にキスをした。唇だと、ハードルが高く感じられた。愛は、大人のスマートなキスに驚いたようだった。
「ありがとね、またね」
「はい、ありがとうございます」

愛は照れくさそうに俯いている。神田は、身を乗り出して愛をぎゅっと抱きしめた。
「愛ちゃん~」
「いや! ほんと、やめてくださいよ! 人見てますし」
照れ屋な愛に諭されて、ごめんねと言って離れる。
愛は照れくさそうに、駅に向かっていった。

はぁー、たまらんなー。愛との関係が始まった。
神田は愛に、「セクハラみたいなことしてごめんね。気をつけて帰ってね」とLINEを送った。
大晦日も正月も、神田はすることもなく家でひたすらテレビを見ていた。ドラムを叩いて輝いていた愛が懐かしい。愛にまた、LINEを送った。
「今なにしてる?」「会いたいよ」「今度このバー行こう」「暇だ~」

年が明けた。仕事始め。愛を探したが、居なかった。体調でも悪くしたのだろうか。すると、部長から「神田ちょっと」と別室に呼び出された。
「あのな、日吉から相談を受けて……」

神田は、セクハラの加害者にされていた。愛とのラインのやりとりをプリントした紙を見せられる。
「……。すみません、全然そんな意図はなくて。このLINEは本当に、ちょっと酔った勢いというか、何もしてません」

神田はきょとんとした。セクハラ? 互いにいい感じの雰囲気だったぞ? 何かの間違いか?
「いや、音声もあるから。お前これだけあると訴えられるぞ?」
車内での会話を録音されていた。しかし、愛が普段から警戒して録音するとも思えない。演奏中に、愛が携帯の録音ボタンを押して机に置いていたことを思い出した。きっと、演奏の音源を取ろうとして、そのまま停止し忘れていたんだ。
愛は、どうしても出社が辛い、顔を合わせたくないということで、一ヶ月の休職をするとのことだった。上司が言うには、神田を辞めさせたくはないが、何か対処をしないと、愛の方が次の手段に出る可能性がある。証拠がこれだけ揃っていると、否定もできない。異動して欲しい、とのことだった。神田は、異動が皆無のこの会社で、東京本社から大阪支社に飛ばされた。

神田にとって、離婚後に出逢った女たちの中で、愛は別格の人間だった。心から好きだった。愛は露骨な色仕掛けなどして来ないし、クソ真面目にジャズとドラムが好きな、純粋な女性だった。心が通っていたと思っていた。少し歳は離れているが、将来のパートナーになるのかも知れない、とも感じた。しかし、色気を出して来ないのは神田に対して好意が無かったからだし、握った手を避けなかったのも、上司だから断れなかったのだろうか。でも、なんで嫌なら何回もプライベートで会ったんだよ。俺は楽器を運ぶただのアッシーだったってことか? 照れているように見えたのは、嫌だったからなのだろうか。ていうか、確実に途中まではいい感じだった。なんでハグごときで嫌になってしまったのだろうか。女の気分は変わりやすい。とんだ女に当たってしまった。

神田は、自分が先輩であることを利用して愛を誘っていたことを認めたくなかった。気持ちは繋がっていたが、愛がちょっとウブすぎたんだと思うことにした。神田はYahoo!知恵袋で自分の身の上を語り、「相手の女はおかしくないですか?」と問うたが、返ってきた答えは「訴えられなかっただけ感謝しろ」「ふざけるな」「昔の考え方」といったものばかりで、世の中には人を批判したい人が多いんだな~と思うことにした。
もう、どんなに思いを巡らせても、愛の心は帰ってこない。中年の神田の淡い恋は、こうして終わりを迎えた。

三尾やよい

悪趣味が高じてフリーライター。エロ・グロ・ゲテモノ。アダルト系WEBコラム連載/ニュースメディア翻訳ライター。毎日がFernweh(;-;) 将来の夢はベルリンで引きこもって夜な夜なテクノ鑑賞。