男は金、女は顔だ。
幼い頃から自信が無かった。日によって気分の浮き沈みが激しく、調子のいい時は周囲の人たちと話せたけれど、自信のない日は人と関わることができず、うつむいて、喋れなくなった。かたやクラスメイトは、いつでも自信ありげに毎日を過ごしている。彼女たちと、愛の違いは何なのだろうか。

段々と愛には分かってきた。彼女たちの揺るぎない自信は容姿から来るんだ。愛は中肉中背でタヌキ顔、ドロンと溶けそうなマヌケで締まりの無い顔だ。
中学生の時に、地味な友人に誘われて吹奏楽部に入った。花形のフルートを希望したが、部内のデブの巣窟であるパーカッション担当になった。
愛は社会人になり、県内の会社に勤め出した。実家にいるのが嫌で、親の「金が貯まらないぞ」という助言を押し切って一人暮らしを決めた。持ち前のトロさで、くだらない失敗ばかり繰り返していた。会社では、優しくしてくれる人もいたし、冷たい人もいた。冷たくしてくる人は、愛の容姿が悪いからそうしてくるんだ、と思った。可愛い方が同性受けが悪い、と思うかも知れないが、周りが認める「可愛い人」というのは周囲の人間に憧れや「壊してはいけない」という感情を持たせるので、特に頑張らなくても一定レベルで優しくしてもらえるんだ。
愛は会社の女性たちと同等のレベルになって、見た目でナメられないように、服を買い揃え、頻繁に美容室に行き、まつ毛エクステやジェルネイルをしなければならなかった。「『服をシーズン毎に変えること』『髪を整えること』『まつ毛エクステをすること』『ネイルを施すこと』は『女』であるための最低条件」という風潮が女の世界にはあるのだ。これらを収入とのバランスを考えずにやったものだから、返済ができなくなっていった。きっとうるさい親から「何に使ってるんだ」「明細を出せ」「ほらやっぱり自活できないじゃないか」と問い質されるかも知れない。親には頼れない。こうなったら、どんな手段を使っても自分の力でお金を稼ぐしかない。でも、昼の仕事をしながらお金が稼げる仕事なんて限られている。水商売か? いや、大瀬の人と煌びやかな場所で話したくない。風俗……? 愛は「もうどうにでもなれ」という気持ちで、風俗求人サイトに登録した。

初めてサイトを介して連絡が来た求人はメンズエステだった。一人暮らしのアパートから徒歩10分。何をされるんだろう、お金をぶん取られるのか、殺されるのか、と不安になったが、もう自分の人生なんてどうでも良かった。会社帰り、愛はその店に電話をかけた。

「あ、ネットから応募した者です」
「あ、はい。応募ですね。一度お店に来てもらえますか?」
「あの、今日とかって難しいでしょうか」
「あ、今日? はい……じゃ待ってるね」
「宜しくお願いします。あ、実はいま住所検索で着いたんですけれど、どこにあるかちょっと、わからなくて……」
「あ、分かった。隣にコンビニあるよね? そこで待機しててください。」

電話を切り、コンビニの前でリップを塗って待つ。どんなイケイケなお兄さんに品定めされるんだろうか? 「あ、ハズレ、デブ」とでも思われるんだろうか。とても怖かったが「いいや、どうせ美女とは思われない。今までの人生もそうだった」と、自分に言い聞かせる。
すると、ヨレヨレの黒のTシャツに黒のズボン、ダサい眼鏡をかけた背の高い男がやって来た。

「君は、応募してくれた子かな?」
「はい、そうです。宜しくお願いします」
ナメられないように、はきはきと喋った。
「建物はね、ここの隣のビルで」

店は、ボロマンションの二部屋を借りていた。エレベーターに乗って部屋に着く。ドアには、店名が書かれたペラ紙をラミネート加工したものが貼ってある。ドアを開けると、薄暗く、真っピンクのいやらしい空気が充満していた。電気をすべて、ピンクの蛍光灯に替えているようだ。この空気感だけで濡れるし勃つし、緊張するな。ここでもう、犯されるのだろうか。殺されるのだろうか。
間取りは、トイレと、キッチンと、ドアのついている部屋が3つ。そのうち一部屋を事務所代わりにしているらしかった。とてもこじんまりとしていて、ザ・個人経営といった感じ。もっとキャバクラのような雰囲気だったり、整体のような店だと思っていたので、ますます不安が募った。

「ごめんね、ちょっと狭いけど、ここ座って」
座椅子に座らされる。会社帰りのスーツスカートだったので、どんな体勢になっても太ももが露になるか、パンツが見える。わざとそうさせるための座椅子なのか? とも思った。
「店長は、ホスト狂いの女の子は途中でバックレることが多いから雇わないんだ」とか「君は本当にホスト好きとかではない?」とか聞いた後、お店の決まりやお金のことなど色々と話し、源氏名を決めて、その日に体験入店をすることになった。

まずはマッサージの研修を受けて、そのあとに来たお客さんに付く。
制服は淡いピンクのミニスカナース服。着てみるとパンツギリギリの短さで、おじぎをすればパンツが丸見えだ。たくましいふくらはぎと太もも、肉が重なった膝が露わになり、とても醜い。こんな姿、来た客が「あっ、ハズレだ!」と思うだろう。店長の待つ待機室に入ると、マッサージを教えてくれるというお姉さんもいた。部屋に足を踏み入れた瞬間、そのお姉さんに醜い足を一瞥された気がした。愛は「これを着ているのは不本意なんですよ」という意思表示に、スカートの裾を引っ張ってみせた。

「やっぱり、こういう服は恥ずかしい?」
「あ、はい……ちょっと、公害ですよね、すみません」
「いや……? とても似合ってるけどね」
店長はポカンとした顔で言った。

愛は講師から習ったとおりの接客をした。オイルを手に出して、わざとくちゅくちゅくちゅと音が聞こえるように手に慣らす。無言で客のふくらはぎを手で包む。そこから両親指でスーッとゆっくり、ふくらはぎへ登り、股関節まで来たら少し力を緩めて、フェザータッチのようにする。次に、足のマッサージ。骨に沿って、肉を剥ぐように親指を入れる。しばらくしたら、段々と太ももの方へ手を這わせて行き、お尻を揉みしだく。そして、一旦身体から手を離すと、オイルを自分のひじのほうまで塗りたくる。そして、客の太ももを抱き抱えるように腕を入れ、股関節をこする。これをしていると、客の下腹部が段々と熱を帯びてくる。客によっては「あっ、あっ」と喘ぐ人もいるし、全然感じない人もいる。この「鼠径部マッサージ」が、健全なマッサージ店と風俗店との境目であり、所謂「メンズエステ」の目玉でもある。鼠径部を10分ほど刺激したら、次は背中のマッサージに入る。お姉さんに「遠くてやりづらいと思うけど、客の頭の上から施術してね」と言われ不思議に思っていたが理由が分かった。客の頭の上に立つと、客がうつ伏せの時は頭にまんこが擦り付けられるようになり、客が仰向けの時はそれに加えておっぱいが頭上に来るようになる。すごい仕組みだ。考案した人は、物凄くバカであり、天才だ。

初出勤を終えて、1万2千円を手渡しでもらい、帰路に着いた。メンズエステのWebサイトを覗いてみると、女の子紹介の欄は「超美人★未経験18歳」「セクシーグラマラス」「いけない色気」「小柄で超カワイイ」など、褒め言葉のインフレーションが起きていた。自分の欄を見てみると、「まじめなおしゃれっ子」となっていた。容姿を褒める単語など無かった。愛はまた、自分の顔面偏差値を再確認した。
愛は、毎週金曜日の仕事帰りと土日の丸一日、真面目に勤務をした。愛には固定客が付いてきて、店のHPにある「指名度ランキング」でだいたい3~4位を彷徨うようになった。
客からたまに、「ここの店長は部屋の前に立って聞き耳を立ててるし、お気に入りの子には金を払うから愛人にならないかって持ち掛けるらしいから気を付けなよ」と言われる事があった。しかし、そう言ってくる客本人もクソ面倒臭いタイプの人だったので、紳士ぶりたいという魂胆のもと、そういうデマを言っているのだろう、うぜえなぁと思っていた。

ある日、最後の接客が終わり待機室に戻ると、普段は店長が待っているのだが誰もいなかった。隣の部屋のドアが開いており、店長が女の子に施術をしてもらっていた。
「お客さんの頭の上に立つと、ここがやりづらいんですよね。」
女の子は、性的な観点から編み出されたそのマッサージの体勢を、カマトトぶって、真剣に考察している口振りで言った。このお店で、技術がどうとか真剣に話しているのは、非常に滑稽だった。
「あー、ありがとう。めっちゃ体に効いたよ」
施術が終わり、お金をもらった女の子は帰宅した。

「いやー、今日、ボウズが出ちゃったよ。可哀想だから僕がお金を払って、マッサージしてもらった」
「ボウズって何ですか?」
「一人もお客がつかないってこと」
愛は呆気に取られた。確か、彼女は私と同じ時間から出勤している。一人もお客がつかないということが有り得るのか? 彼女は元整体師で、技術はあるだろうし、いい人だし、スタイル抜群で肌が綺麗だった。しかし、それらが全て霞むほど、ギョロ目の出っ歯だった。容姿か。愛は容姿に恵まれていない方ではあったが、せめて出っ歯じゃなくて良かった、と思った。

「もう今日はお客さん来ないだろうし、君も施術する? お金もちゃんと出すよ」
お金につられて「はい」と言った。なにか”雰囲気”が部屋に充満した。店長が紙のTバックでベッドにうつ伏せになる。
「クリームで宜しくね」
愛は「はい」と言って、クリームを手に取り擦って温めて、店長のふくらはぎにねっとりと塗った。そこから親指の腹でスーッとふくらはぎへ伸ばす。
「……。あったかい。天性だよ、その手」
嬉しい。「へえ、そうですか」と言う。脚全体をほぐしていく。本当はここから鼠径部に入るが、店長には真面目キャラで通してきたので照れ臭く、なかなか店長の太ももに手を入れられなかった。
「君が鼠径部をやってる時に、絶対に勃たないように勝負するよ」
店長はそう言って、萎えそうなプロレスを携帯で見始めた。

「え~っ、鼠径部やるんですか」
「あ、嫌だったら良いんだよ全然」
店長は雑な感じで言った。愛はNG有りの女と思われるのが癪で、自分の腕にクリームを塗りたくると、店長の脚に絡めて鼠径部をした。
「あ、あっ」
店長は大袈裟に喘ぐ。それは、くすぐったい、という感情を込めたような言い方だった。
愛は、男性がこうして反応している姿を見るのが大好きだ。自分が異性として、興奮の対象として認められた気がするからだ。どんどん際どい部分へ腕を滑り込ませる。
「あ、あ、待って待って待って。ちょっと僕やばいかも」
店長は、見ていた携帯を机に放り、顔を枕に押し付けた。店長のTバックはビンとテントを張っていて、先端から透明な汁がベッドに伸びていた。その光景は非常にいやらしく、芸術的に思えた。店長は、はあはあと吐息を漏らしながら仰向けになり、自分の乳首を指して、「ここ舐められるかな」と言った。あ、これはマズイ。エロ展開だ。もっと相手を感じさせたいという感情が先行し、ゆっくりと乳首に舌を這わせた。ゆっくりゆっくり舐めたあと、強めに舐めたり甘噛みをした。

三尾やよい

悪趣味が高じてフリーライター。エロ・グロ・ゲテモノ。アダルト系WEBコラム連載/ニュースメディア翻訳ライター。毎日がFernweh(;-;) 将来の夢はベルリンで引きこもって夜な夜なテクノ鑑賞。