「あぁ、君、うまい」
店長の褒め方は、まるで自分がテクニシャンになったかのようで、とても嬉しかった。店長はベッドに座り、鏡の前に愛を立たせた。
「脱いでくれるかな、背中を見せて」
愛はファスナーを下ろし、ナース服を脱いだ。店長が愛の乳首に舌を這わせ、じゅぶじゅぶじゅぶと激しく舐める。愛は乳首が感じやすく、そんなことをされたら感じないわけにはいかなかった。

「あ~、気持ち良い、ん」猫なで声で言う。
「挿れたい」「ゴムある?」「君、ピル飲んでるでしょ、少しだけ挿れよう」
愛は、施術ベットに仰向けに寝る店長に跨がり、ちんこを指先で持つと中に入れた。店長のちんこは長さと太さがぴったりで、これが相性が良いってやつか、と思った。

「うわ、君、名器だぁ」
店長は苦しそうな顔をする。店長の褒め方は、ほんとうにうまい。愛の過去の彼氏たちは「もうちょっと締らめれる?」と言ってきたり、中折れしてしまっていたりしてきたので、自身の器にはすっかり自信を無くしていた。店長は、そんな愛に女としての自信を与えてくれた。
愛は自分から責めるのが好きだ。騎上位でゆっくりとピストンする。
「あー、ああ、待って待って! 君主導だとまずい、僕、早漏だからね、待って」
バックの体勢に変えて、店長が自分から挿れた。

「ごめんね。嫌だったらちゃんと言ってね。シャワー浴びてきな」
店長にそう言われ、シャワーから出ると、施術台は既に整えられ、店長はきちんと服を着て、テーブルにお茶とお金が置かれていた。
「僕は、なあなあな関係とかにしたくないから。割りきった関係はきちんとお金を出す。過去に、お金の要る女の子を何人も囲ってきたから割り切り方は分かってるよ。君が嫌じゃなければ、僕を使ってくれて構わない。僕はいつまでも若くいたいから女の子と触れあいたいし、お金はある。利害が一致してるでしょ。」
店長はあくまでも、自分の性的欲求のためというよりも、女の子を金銭的に援助するため、そして自分が若くあるため、というのを強調した。言い分は正当性を帯びて、つい納得してしまいそうだった。
「じゃあ、気が向いたらいつでも連絡してくれていいから」
愛は、正直お金に困っていた。エステで働くと、10時間ほどエステにいて3万円ほど稼げるが、店長と一回やるだけで3万円が手に入った。働くことがとても馬鹿らしくなってしまい、この関係を続けても良いかなと思った。帰り道、自分は「囲われたんだぁ」と思うと、まるでグラドルの卵のようで、ビッチ道を走ると思うと、悪くない響きに酔いしれた。

朝起きて、店のWebサイトを覗いた。「指名度ランキング」の1位に、愛の源氏名があった。愛は、ハッと頭の冴える感覚を覚えた。たぶん、俗に言うと「すごくうれしかった」のだと思う。とりあえずスクリーンショットを撮って保存した。私は、出来の悪い人間なんじゃない。オフィスワークが壊滅的に合ってないだけだ。私があまりストレスを感じずに1位になれる世界が、やっぱりこの世のどこかに遭ったんだ。愛の承認欲求は満たされた。コネが有ると仕事がし易くなる、というのはこういうことかと思った。いつも1位や2位は、ネットで「やらせてくれる」という意見が見受けられた人だ。お店の紹介では、「超グラマー! かわいい!」とあった。本当におっぱいがでかくて、顔は整形したような整い方をしている子たちだ。そんな、いわゆる”きれいどころ”とタイマンを貼ってランキングに乗ったのだ、と自分に都合の良いように解釈した。ランキングに乗るというのは、こんなにも嬉しいことなのか。ここはメンズエステである。そこでランキングに乗ったことは、社会的に褒められたことではない。そう分かっているのに、正直嬉しかった。知り合いに「わたしメンズエステのお店でナンバーワンになったんだ」と口走ってしまいたい程、嬉しかった。

たまに店長からお金をもらう関係を続けながら勤務をしていたある日。新規の客が、愛を指名して入った。新規の指名だと少しお金が多くなる。愛は待機室にいた女の子に対して誇らしさを感じながら客を待った。
ピンポン、とインターホンが鳴り、「はぁい」とわざとらしい甘い声を出してドアを開けた。そこに立っていたのは、同じ会社の男だった。

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数か月後、愛は東京にいた。メンズエステ店に偶然知り合いが来て、会社に居づらくなり、匿名性のない、この小さな街で生きていく自信がなくなった。会社に噂を流されたかどうかは知る術も無いが、普段冷たい先輩たちが、半笑いで接してくるようになったことは、愛の被害妄想を助長させるには十分だった。そうなると被害妄想は止まらない。アパートの隣の人も、中学や高校の同級生も、どこからか自分の素性を知っていくのではないかと気が気ではなかった。なるべく、昔からのご近所さんとか中学の同級生とか、そういった知り合いのいない遠くで生活しようと決めて、有休を駆使して転職活動し、東京の派遣型IT企業で勤めることになった。メンズエステに土日とも働きづめだったので、当初の目的だったお洒落をする暇もなく、幸いなことに新生活をするための金は貯まっていた。親は、東京への転職という愛の突拍子もない行動に、とっくに慣れて、また、諦めてもいた。

メンズエステでランキングに載ったことで自信をつけていた愛だったが、東京はその誤った自信を粉々にする場所だった。会社には、可愛い上にスタイルがよくて頭も良い、性格にも難のない格上な女ばかりがいた。その環境では、愛は紛れもなく、東北からノソノソとやって来た毛狸だった。東京の女は、髪を整えたりネイルしたりする他に、ヨガに行ったり、小顔矯正に行ったり、全身脱毛に行ったりと、ありとあらゆる技を駆使して「女」になっているようだった。愛はまた、そういったことに金を使いだし、生活は圧迫された。一度メンズエステで働いているのだから、もう手段は選ばない。親元にいるときは、親が守ってくれたけど、彼らももう老人。お金が無ければ、どんなことをしてでも、自分で金を作らなければならない。愛は、再び風俗求人に登録した。

愛が足を踏み入れたおっパブ店はあまりケバケバしくなく、和風居酒屋のような雰囲気。支配人は、普通の仕事はしていなさそうな、ダーティーな雰囲気のある目つきの男だった。EDMやPOPSのヒットチャートが流れ、かなりガヤガヤした雰囲気だったので、待機室で元気で意地悪なギャルがたむろっていたらどうしようと不安を感じた。しかし待機室に入ると、みんな携帯を見つめるか寝るかしていて、同じ机を囲んでいるというのに、誰一人として会話はしていなかった。この雰囲気が自分には心地良く、この店合っているかもと感じた。
とりあえず体験入店ということで、身分証明書のコピーを取られ、契約書を書かされた。遅刻で減給、客や男性従業員とプライベートで連絡を取ったら罰金何十万円などと、おどろおどろしい言葉が並び、”やばいところ来た感”があったが、長く働いている女の子もいるようだったし、飛び込んでやれとサインした。
渡されたコスプレは、Yシャツとミニすぎるチェックのスカート。パンツはモロ見えでワカメちゃん状態。他のキャストのコスプレを見ると、バニーガール、赤ずきんちゃん、アリスなど、このヨレヨレの制服コスプレよりもかなり可愛い。制服コスプレは、体験入店の人だけ着させられるのかなと感じた。

数日後、愛は体験入店をした店に出勤したい日程を送った。すると、「申し訳ないがキャストがいっぱいなので大丈夫です」といった内容が返ってきた。仕方ないと思い、他の店にも足を運んだが、どこも体験入店だけで、なかなか次のシフトを組んでくれなかった。中には、面接だけで終えて、結果は後日、というところもあった。
愛は、次第に分かってきた。私の容姿だと、この土地では「女」として売ることができないんだ。20代前半の子たちに混じって、プリプリとワカメちゃんのような服を着てドヤ顔していた自分を恥ずかしく思った。思い返してみれば、客の反応も不思議なものだった。おっパブはキスしても胸を触ってもいい場所なのに、それを一切してこない紳士的な客が多かった。あれは、紳士なんではなく、ごめんなさいの意味だったのか。

愛は、ランキングに載っていたエステ嬢時代を懐かしく思った。あの時は、人生の中で、いわゆる「堕ちた」時代だったけど、あのとき確実に「女」として輝かせてもらっていた。褒め上手で、セクハラおやじだけどちゃんとお金をくれる、店長に囲われたあの時代を恋しく思った。けれど、私に若さや可愛さのような価値はもう無い。誰かも「若さやきれいさは資産価値ゼロになる」と言っていた。この東京という地で、性を金にすることを諦めて、まじめに生きていくしかない。

三尾やよい

悪趣味が高じてフリーライター。エロ・グロ・ゲテモノ。アダルト系WEBコラム連載/ニュースメディア翻訳ライター。毎日がFernweh(;-;) 将来の夢はベルリンで引きこもって夜な夜なテクノ鑑賞。