「はい。オーディションの方、こっち集まってください」
いかにもこき使われていそうなヤンチャそうな青年が言うと、女がワラワラとビルのロビーに集まってきた。さっきからものすごく仲良さげに話してるギャル2人組がいて、こいつら友達同士で応募して書類受かったの? と驚いたが、一人が「がんばってね〜」と言って消えていった。どうやら、一次オーディションが心細くて友人について来てもらったようだ。いい歳して、一人で面接にも来れないのか……就活の場面では目撃することの無かった底辺の思想に、驚き呆れた。
目玉を不自然に大きく見開いている、白のふわもこセーターにミニスカートの女。黒髪ボブで胸をツンと張りすぎてハト胸になっている女。まぶたと涙袋が恐ろしいことになっていて、細長い足をXにして立って虚勢を張ったドヤ顔をしているギャル。ショートカットのカジュアル系ギャル。ブスなギャル。小綺麗なギャル。ギャルの圧倒的多さに、ギャルが世の中のメジャーなんだっけ? と錯覚する。

数ヶ月前、ゆうひはネットでテレビの出演権獲得オーディションについて知り、応募してみた。恋に悩む素人の男女が集まって生活をし、外野がやんや言う、という最近では見慣れたテレビ番組のひとつだ。ゆうひは正直そういったテレビ番組をバカにしていて、まったくキャラでは無かったのだが、出演した大したことないイラストレーターが、番組を通して有名になり、クリエイターとして食べていけるようになった例を目の当たりにしていた。ゆうひには夢があった。自分の絵で稼ぐこと。一般企業に勤めながら、オリジナルキャラのグッズ販売をしたり、漫画の二次創作物を販売したりしていた。しかし、クリエイター戦国時代の昨今、無名のゆうひが作ったものは売れやしない。売れるか売れないかは、作品のクオリティではなく、知られるか知られないか、それだけだ、と感じるようになっていた。まったく興味の持てない昼の仕事で嫌なお局に怒られたりすると、「ああ。もう、私は会社勤めに向いてない。自由なアーティストになりたい」と想いを募らせて、私はアーティストになるんだ、という逃げ道にすがってきた。しかし、最近はっきりわかってきたことは、「自分はどうやら、独立してアーティストになるのは難しそうだ」ということ。有名になれる何かが無いと、ブレイクスルーできない、そう感じていた時に、偶然か必然か、素人のテレビ出演のチャンスを目にして、まぁ運試しに、と応募をしてみたのだ。応募は非常に簡単で、ウェブの応募要項に、氏名と志望動機を書き、写真をアップロードするだけ。どんな嘘っぱちでも書けるテレビ業界の実態に「これじゃあショーンKが抜擢されるわけだわ」と納得する。アーティスト志望で恋愛も人生も模索中、というようなことを書いたら、うっかり書類が通ったのだ。一次オーディションは平日の真昼間。バカにしていた番組なのに、「もしかしたら」という期待が湧き上がると止まらなくなってしまい、有休を取ってノコノコやって来た。

簡素な机と椅子のある待機室に一次選考の女たちが通されると、机の上にある履歴書のようなものを書かされた。「書き終わったら教えてねー」と、さっきのスタッフの青年がウロウロと歩き回る。さて、ギャルたちは日本語を書けるのだろうか。渡された用紙には、過去の職歴のほか、今まで付き合った人数、忘れられない恋愛などといった独特な質問が書かれていた。ゆうひは、付き合った人数の欄に「3人」と書いた。本当はもっといたはずなのだが、今後どんなに交際人数が増えても、3人と答えることにしているのだ。

「えーっ、ギャルさん特技ないのお?」
スタッフが女に話しかける。
「ないです」
ギャルは、いかつい顔からは似つかわしくない、ねっとりした舌っ足らずな喋り方で答える。
「本当になんかないの? つまんねーな」
スタッフは明るく笑う。
「ないです。強いて言えば、食レポとか」
「食レポできんの?」
ギャルが可愛く頷く。どうせ食レポなんて、仲間内でSNOWを使ってインスタのストーリーに彦摩呂の真似とかして撮ってるレベルだろう、と容易に想像が付く。

「君は何してる人?」
「アイドルやってましゅ」
皆の視線がいっせいに声の主の方へと向く。ましゅ、というのは大袈裟だけれど、そんな滑舌で、目をかっぴらいたその子は答える。
「アイドルが恋愛番組でたらまずくね?」
「はい、炎上するとは思いますけど……」
笑いが起きる。
「事務所OK出てるの?」
「はい。大丈夫だって言ってました」
「なんで応募したの?」
「なんか……アイドルのリアルな恋愛模様って、誰も見たことないじゃないでしゅか」
「あー。それで売名しようみたいな、浅はかな考えね」
スタッフがいじると、女たちが笑った。いじりにしては、辛辣だ。テレビ業界は怖いなと思う。

すると、女のスタッフが部屋に入り、男のスタッフに耳打ちをする。
「みんな、トイレいい? じゃ、いこーか」
女たちは整列させられて、スタッフの後をついていく。
「失礼します」
大きな部屋に入ると、テーブルに5人ほどの面接官がついており、ゆうひたちは椅子に座らされた。面接官と応募者の距離はかなりある。面接官たちは30〜50代の男女で、テレビ業界特有なのか、みんな肌艶が良く、若々しく溌剌とした雰囲気で、仕事に大きなやりがいを持って仕事をしているのが伝わってくる。一人ずつ、職歴や過去の恋愛などを聞かれていく。
「元彼がひどい人で、男の人が信じられんくなって」
「今まで、連絡先交換して、デートして、付き合ってみたいな、マトモな恋愛したことなくて」
「大好きだった人が、妻子持ちを隠してて」

皆、不幸な恋愛話を、さも自分がこの世で一番の不幸者、とでも言うかのように語る。特に、顔面偏差値が高ければ高いほど、そういうのが多かった。容姿が良いと、変な虫が沸いて逆に大変なんだなあ。どいつもこいつもそんなだったので、不倫も浮気も裏切りも、フツーのことなんだなあと感じてしまうほどだった。
いやいや、そうではない。ここは世間の掃き溜めだ。マトモな人はマトモな恋愛をしているはずだ。ゆうひの番が回って来たが、恋愛の質問にはロクに答えずに、会社員をやりながらクリエイター活動をしている、というのを重点的に話した。ゆうひにとって、過去の恋愛は至極どうでも良くて、話のネタとして面白いことが言えなかった。他の候補者が言っているような、裏切り、浮気、不倫など、色々と経験はしていたが、結局のところ男女というものは、自分が本気にならなければ妥協してでも相手は見つかるし、うまくいくものなのだ、と諦めている節があった。
大して面白いことは言えなかったが、他のギャルたち6人くらいが、高校を中退してキャバ嬢をしてそれも辞めて、と、あまりにも「同じ」だったため、もしかしたら受かるかも? という期待があった。エレベーターで1階に降りると、女たちは一斉に「終わったよー」と電話し始めた。付き添いの友人を待たせている者は、すぐに駆け寄っていった。みんな、一人が心細いんだ……! 私は、毎日こんなにも一人になりたいのに。社会人になってから、人とつるむことがあまり無かったので、世間の女の子とのギャップに久々の疎外感を感じた。

****

家の最寄り駅に降りて家路を歩いていると、携帯に知らない番号から電話が掛かってきた。
「あ、面接のスタッフです。ゆうひさんで合ってます?」
「はい!」
「どう? 面接自信あった?」
「いや、全く無いですけど、この電話で、もしかしてとは思ってます」
「そーです。おめでとーございます。なんか、今回チョーラッキーでえ、ホントは俺が一次面接やって、次に二次、でその次が最終なの。けど、今回はたまたま、二次面接の決定権のある人が面接やってて、ゆうひさんのこと、めちゃ気に入ってたから、次は最終に飛べるの」
ゆうひは、自分の存在が認めてもらえて、急にとびきりの女であるような気分になった。けれど、その決定権のあるオジサンが気に入ってくれただけで、女の面接官からはウケが悪かっただろうなあ、と後ろ暗い気分も同時に押し寄せた。ゆうひは、昔から「芋っぽい女が好き」なオジサン受けが良いのだ。

しかし、最終面接は再び平日の昼間から夜の時間帯だった。昼に事務処理をして、夜は居酒屋でディレクターたちと飲みながらの面接を行なうらしい。仕事は無理をして有休を取っており、既に同僚たちから冷たい空気を感じていたので、小心者のゆうひには、また続けて有休を取る、というのは到底できなかった。
「すみません、ものすごく行きたいんですけど、仕事が休めそうになくって。他の日とか無いですよね」
「えー。そうか。残念だな。他の日はもうないんだよねえ。じゃ、とりあえず答えは保留ってことで、行けるってなったら前日とかに連絡してもらっていいから」
テレビ局は緩いな、流動的な業界だな、と感じた。代わりは、いくらでもいるということだ。
「でも、もったいないな〜。一次の次に最終って、滅多にないことなんだよ?」
「今回、応募が7000件あったんだよ? そのうちの数人に絞られたんだよ?」
スタッフにそうやってそそのかされると、自分が全国から選ばれた貴重な人材のような気がしてきて、段々とどう断ろうか、どう気持ちに折り合いをつけようか、という気持ちから、どうやって会社を休もうか、どうしたら無難に引き継ぎできるだろうか、という思考に変わっていった。

最終面接の日。ゆうひは、応募者の待ち合わせ場所の駅にいた。会社は再び有休を取った。もうすっかり、テレビの世界に入る気持ちになっていて、どう会社を辞めようかなんてことまで先走って考えていた。
集合場所は新橋駅のSL広場。大きなスペースがあったが、そこで見世物のように突っ立っているのは恥ずかしく、建物の壁にもたれて、それっぽい人が集まるのを観察していた。すると、ピンクのワンピースにストレートヘアの姫っぽい雰囲気の女と、どぎついメイクの金髪の細い女が「ワァ〜」と言って合流し、心細そうに辺りをキョロキョロと見回していた。明らかに友達ではなさそうな風貌だったので、彼女たちはもしかしたら最終面接の女たちかも知れない、と思って心臓をバクバクさせながら眺めていた。すると、見覚えのあるあの男のスタッフが大股で彼女たちに近づき挨拶をしていたので、ゆうひはすぐさまそこに小走りで駆け寄った。
「あー、ゆうひさん、こんにちは」
スタッフが名簿にマルをつける。ピンクワンピとドギャルは、ギョッとした顔でゆうひを見る。モデルと言われても納得する容姿の彼女らと、アラサーに足を突っ込んでいる中肉中背のたるんだゆうひでは、顔面偏差値の差が凄まじかった。するとあちらこちらから最終面接女が集まってきて、総勢10名ほどのジャンルが違う美しい女たちが、スタッフの男を遠巻きに囲んで黙っているという異様な光景ができあがった。周囲からは、どう見えているのだろう。髪を外ハネに巻いたカジュアルな服装の小柄美人。ベリーショートで全身黒のスッとした美人。ノーメイクに見える真白な肌で黒髪ロングの美人。一次面接の時は何だったのだろう、というくらいに巻き髪ギャルは消えていた。その中で、体のすべてのパーツがブヨッとだらしなく、目鼻立ちもパッとせず、猫背で、髪もいつも通りのひっつめ一つ結びのゆうひは、とてつもなく浮いていた。スタッフの男も、ゆうひの扱いに困っている様子で、あまり目を合わせずに、他の女とキャイキャイとしゃべっていた。

皆で列になってゾロゾロと歩く。個室居酒屋に着くと、スタッフは「じゃあ自分の名札のある席に着いて」と言う。選考の様子も撮影が入るようでカメラが一台入っていた。途端に緊張してしまって声が段々と小さくなり、他の人との会話がままならなくなった。
隣は金髪ショートカットのドギャルだった。「緊張しませんか?」と思い切って小声で話しかけてみると、ドギャルは目を合わせずに大声で言った。
「なんで緊張するん? する必要全然ないじゃん。私全然緊張しないんだよね」
自分、緊張しない大物なんです、と周囲に主張したいようだった。対して、こいつは緊張している小心者だぞ、と言われているようで「何でそんなに大声なの〜!」と焦り、ますますゆうひは緊張するのだった。

「じゃあ、ディレクター到着したんで宜しくお願いします」
ぞろぞろと大人たちが入ってきた。前の面接で見た人もいたし、そうでない人もいた。応募者10人に対して、面接官は7人もいた。
一次面接の、質問されたら答えるというような雰囲気とは打って変わって、最終に残る女たちはキャラ付けがしっかりしていて、話される前に話すタイプの女ばかりだった。キレイで、押しが強くて、しゃべりもイケる。ゆうひが言葉を発したら鼻で笑われそうで、ますます萎縮した。

ゆうひの前に座った面接官は、一次のときに唯一いたオジサンだった。肉厚の胸板に、韓国人風の髪型、金の丸眼鏡。顔のシワは年相応だったが、正直、ゆうひのタイプだった。
「君ねー、僕が君を選んだんだよね」
丸眼鏡は真面目な口調で言う。話し振りから「俺はエリートでやってきた真面目な男だ」感が溢れ出ていた。
「あー、そうなんですか! 嬉しいです」
「普段何か作ってるんだっけ?」
「あ、はい、こういうの作ってます」
ゆうひは、自分の作品のマスコットなどを鞄から出してそっと見せる。
「へえ、可愛いね。器用だね。売れてるの?」
「いや……。全然」
ゆうひは苦笑いで答えた。

会話がつまらないと判断されたのか、丸眼鏡はゆうひの隣の女に話をシフトしてしまった。
しばらく隣の女の恋愛話を聞いているふりをしていると、違う面接官の女性が「はい、質問。みんな、水着は大丈夫?」と切り出した。
この番組では、必ず海や川などにいって、水着姿になるシーンがあった。みんな、イヤ〜と笑顔で言いながら、自信ありげに胸を張る。
「ゆうひさんはどう?」
丸眼鏡が言った。どうも何も、この段腹でセルライトだらけの体で、昨今の女のスタンダードオプションである全身脱毛も施していないこの体を、なぜ地上波に出せるというのか。ゆうひにその質問が向けられたとき、周囲の女がニヤニヤしながらだらしのない体を見ている気がした。
「いや、どうしよっかなって思います、そんな見せられる体じゃないんで……あと20キロくらい落としたらいいかなー、みたいな」
丸眼鏡は、イヤイヤイヤと気まずそうにお世辞の返事をして、次の話題に移った。
飲み会が終わった。面接結果がいつ知らされるとか詳細が語られることは無かった。

三尾やよい

悪趣味が高じてフリーライター。エロ・グロ・ゲテモノ。アダルト系WEBコラム連載/ニュースメディア翻訳ライター。毎日がFernweh(;-;) 将来の夢はベルリンで引きこもって夜な夜なテクノ鑑賞。