「いやー、なんか今日飲み過ぎちゃったみたいだわ。お酒入ると勃たなくなっちゃうんだよね」
西山は、気まずさを誤魔化すかのようにペラペラとよく喋り、普段はフル勃起すること、今日だけは特別に勃たないことを力説した。
普段は、本当に勃っていたのだろうか。普段っていつ?
こんな歳になっても、定期的にセックスをしているのだろうか。誰と? 別居中の嫁? わたしのように引っ掛けた、あんまり知らない女?
「ちょっと、舐めてみて」
西山は、仰向けのゆうひの肩に跨り、ゆうひの口元に、ふにゃんとしたペニスを出した。その逃げられない体勢に興奮したゆうひは、小さなペニスを口に含んで転がした。しばらくしゃぶっていると、次第にペニスは口内で大きくなり、口いっぱいになって収まらなくなった。
「ぷは」
ゆうひがペニスを口から出すと、それは既にギンギンにそそり立っていた。また西山が、そのペニスをゆうひの口に押しつけた。ゆうひが受け入れると、西山は自ら腰を振り、ペニスを口内で大きくピストンし出した。イマラチオと言えるだろう、ゆうひは苦しくて涙が出た。西山は、ゆうひの顔を確認するでもなく「あっあっ」と喘ぎ、ヒュッと口からペニスを出すと、自分で3回ほど擦り、白い液体をゆうひの唇に掛けた。

出すものを出した西山は、ぐっすりと寝ていた。ゆうひは西山の方を向いて寝ていたが、西山は背を向けて、まるでゆうひの存在を見ないようにしているようだった。自分の快楽だけを満たして寝るオッサンの姿が非常に腹立たしく、ゆうひは「どうやって帰ってやろうか」とモヤモヤと考えだした。隣にいるとぐっすりと寝付けないし、オナラもできない。明日は予定だってある。無駄な時間を過ごしてしまった。もうそろそろ、始発が出る時間だ。まだ薄暗かったが、ゆうひは意を決して、ベッドからするりと抜けると、脱ぎ捨てていた服を着た。パンツを拾うと、クロッチ部分がびしょびしょに濡れていて、身につけるととても気持ちが悪く、「あぁ、もういいや」とノーパンで帰ることにして、パンツを無造作に鞄に入れた。
がさごそと準備していると、西山の目が覚めたようで、寝ぼけ眼で言った。
「えっ? 帰るの? 危ないよ?」
「いや、大丈夫です」
「えっ? 本当に? ゆっくりしていったらいいじゃん」
「いえいえ、大丈夫です」
「…そっか。じゃあ気をつけてね」
西山は少し後ろめたそうに言った。ゆうひは、西山の顔をなるべく見ないようにして、玄関を開けた。まだ薄暗い街は、髪がボサボサで、化粧ヨレで目の周りが真っ黒なゆうひを受け入れた。

****

その晩、西山からメールが来た。
「昨日はありがとうね^^」
「久しぶりに興奮してしまいました」
その割には、挿入できていなかったような……。
「やっぱり女の子は、体がぽよぽよしてる方が良いんだよね」
「でも、そこで重要なのは、くびれがあること。くびれがないと、どうにも興奮しないんだよねー」
西山は、急に女とは、という講釈を垂れ始めた。
くびれ。太ましいゆうひが持っていないものだった。この男は、ゆうひのくびれの無い体を見て萎えた、と言いたいのだろうか。西山はこうして周りの環境のせいにして、自分が膣内射精できないことから目を背けているんだ、と憤ったが、くびれの無さという図星な面もあり、ゆうひもモヤモヤは頭から離れなかった。自称デブ専でありながら、くびれがないとNG、というのは、なんと我が儘なのだろうか。デブ専というのは嘘で、ただ単に、世界の大半の男がそうであるように、大きい乳が好きで、でも大きい乳を持っていて自分の手の届く範囲の女がデブしかいない、ということなのでは無いだろうか。
西山のことが腹立たしく、オーディションなんてどうでも良くなっていた。もう、あいつの顔なんか二度と見たくない。この業界は汚い社会の掃き溜めだ。

非現実を味わったオーディションのことなどすっかり忘れて、また日々の細々としたストレスに苛つきながら過ごしていたある日、携帯に見慣れない番号から電話がかかってきた。
「あっす、オーディション受けて頂いたゆうひさんですよね?」
ゆうひは、晴れてオーディションに合格し、素人の集まるテレビの企画に出演することになった。プッシュしてくれたのは、西山だという。ゆうひはパアッと顔を輝かせ、会社になんて言おうかなあ、引き継ぎ頑張らなきゃ、と人生のやる気が急に出てきた。西山と寝たからチャンスがもらえたのではなく、自分の魅力やポテンシャルが買われて選ばれたのだ、と信じ込んだ。西山とどんな顔して会おうかな。二人だけの秘密ができたから、ちょっと会うのが楽しみだな。出演を機に自分の作品が世に出るのか。ちゃんとホームページをカッコよくつくって、自分を確立しなきゃ。人生、ここから変わっちゃうなあ。
馬鹿なゆうひは、こうしてコロコロと思考を変えて、まだ見ぬ世界を生きていく。

そのとき、ゆうひは知る由もなかった。「デブリアン」というあだ名でテレビ出演させられるとは。

三尾やよい

悪趣味が高じてフリーライター。エロ・グロ・ゲテモノ。アダルト系WEBコラム連載/ニュースメディア翻訳ライター。毎日がFernweh(;-;) 将来の夢はベルリンで引きこもって夜な夜なテクノ鑑賞。