そろそろ時効だと思うので、話したいことがある。
「枕営業」をテーマに官能小説(【僕らはみんなヤッている】枕営業大作戦★)を書いていた時のこと。
「やっべ……全然書けない……そもそもオーディションってどこでやってんの?」
アイドルにつきものの「オーディション」なるものを人生で経験したことが無かった私は、「女のバチバチが激しく」「靴に画びょうを入れられて」という古典的なことしか思い描くことができず、キーボードに指を走らせることができずにいた。

「じゃあ、オーディション受けてみればいいんじゃね?」
我ながら名案。というわけでオーディションを探していたところ、とあるTV番組が素人の出演者を募集しているのを発見。一般の男女を集めて生活に密着する、某恋愛バラエティ番組だ。応募はとても簡単なもので、番組のホームページの応募欄に、名前や連絡先、志望動機などを入力して送るだけ。副業でアダルトライターをしていることを書き、過去の記事「膣に異物を挿入するべからず。~やっぱりディルド、100回挿れてもだいじょーぶ!~」のURLを貼って送信。
「送信しました」という確認メールが来ることもなく、音沙汰のない日々を過ごしていたある日の晩。会社から出て携帯を見ると、見知らぬ番号から2回着信が入っていた。

「あーっ、もしもしー、わたくし、番組スタッフの者ですが」
ヌエーッ!! 書類が通っただと!?

そもそもド下ネタ系ではない恋愛バラエティに、「やっぱりディルド、100回挿れてもだいじょーぶ!」とか言ってるアダルトライターが来ていいのか? という疑問。愚かな私の決断は……

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私は、とあるオフィスビル1階ロビーの壁にもたれてキョロキョロしていた。そう、私は会社を休んで一次オーディションに来てしまった。
広いロビーに、オフィスビルに似つかわしくない服装のガールズたちがぽつんぽつんと立って、自分と同じように壁にもたれて携帯を見てうつ向いている。
「もしかして、この人たち一次の人かな? いや、でもお昼休憩の時間だからランチ仲間でも待ってるのかな」
すると、20代に見える男性が現れ、近くにいた女性に話しかける。
「あっ、オーディションの方ですか?」
すると、壁に貼り付いていた女性たちが一斉に男性に群がり、遠巻きに囲んだ。全部で10人くらい。男性が手に持っている名簿で点呼を取る。
「じゃ、行きまーす」
男性スタッフが言うと、女性がぞろぞろと無言でスタッフに続く。目を合わせてニコッ、とかできる空気ではない。全員が黙って一列についていく。ドラクエでしか見たことのない光景だ。

テーブルと椅子のある小さな待機室に通される。そこにはすでに自分たちの名前の書かれた用紙が置いてあり、「名前のとこ座ってください」と言われた。
「じゃ、経歴書を書いてください。書き終わったら教えて」
机には、質問用紙も置かれていた。氏名、住所、連絡先、勤務先、最終学歴、趣味、特技などの他に、恋愛バラエティならではの「交際人数」「忘れられない恋」「彼氏いない歴」「直近の彼と別れた理由」なんかが書いてある。
趣味は「アダルトグッズ収集」、特技は「世界のAVの特徴が言える」、志望動機は「官能小説のネタ探し」。「忘れられない恋」の欄には「大好きだった人のおばあちゃんの名前でアダルトライターをしている」と書いた。

面接までの待ち時間、スタッフに提出したプロフィールをもとに、一人ずつ話を振られていく。自分の番がきた。女性たちの厳しい視線が集中する。ああ、どうかこの場ではAV鑑賞に触れないでくれ。
「で、三尾さんは何してる人?」
スタッフは、プロフィールに散りばめられたアダルティックな内容に一切触れなかった。
「会社員やってます」
「なんで応募したの?」
「えーーっと……新たな恋を見つけたくて~……」
他の女の子は、付き合った男に妻子がいただの、男というものが信用できないだのと語り出していたが、殻の厚い私は自身の恋愛を面白おかしく話せず、その場では一言二言しかしゃべれなかった。

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別のスタッフが部屋に来て、男性スタッフに耳打ちする。面接の準備が整ったようだ。
映画で見たお笑いオーディションの光景のように、偉そうな面接官が「お前ら、つまんねえなあ」と睨んで嘲笑してくるのでは……と戦々恐々としていたが、実際は素敵なニットを着た50代くらいのおじさん、賢そうなコンサバファッションのおばさんたちが普通の会社の面接さながらにきちんと座っていた。後ろには、大きなカメラを持ったスタッフが一台ウロチョロしていた。

「なんで応募したの?」
「小さい時から、ママに『いつも綺麗にしてると王子様が迎えに来るからね』って言われてきてー。私ホントにそれ信じてたんですよ。で、モデルのオーディション応募したら受かってー」
「メール交換して何度か遊びに行って告白して付き合ってー、みたいなフツーの恋愛、したことないんですよ。だから、ちゃんとした恋愛がしてみたいなって思って」

同じような志望動機を3回くらい聞いた。

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「はい、次、三尾さん」
「三尾です。社会人です。カタログ作ったりしてます」
シーン…。面接官は「はぁ」というような顔。それもそのはず、私には他の応募者のように売りになる特徴が無かった。

「……なんですけど、副業でアダルトライターをしています。アダルト系のサイトにコラムを載せてもらっています」
シーン…。あっ、やばい、ミスったのかも知れない。
「アダルトライター…っていうのは、具体的に何する人?」
「えーっと、自分でエロいコラムの内容を考えて、例えば今やってるのだと『世界の射精から』っていう世界のAVを見比べて特徴を見つけるのだったり、『おいでよどうぶつの交尾』っていう動物の性について書いたものとか」

「一度に10個くらいのディルドを使って、レビューしたりもします」
「ディルドって何?」
「それは、本当に自分で使うの?」
「もちろんです!」
19歳ギャル周辺が「キャパァww」と笑ってくれた。
「えーっと、交際人数3人って書いてあるけど、そういうことしてる人って、もっと人数増えるんじゃないの?」
「いや。私はプレイヤーじゃないので」
「プレイヤーじゃない」
面接官がメモる。

「私は自分の体で人とプレイすることに興味がある訳じゃないので、そういうことには興味ないんです。あの、あれ、なんだっけ、あのー、カフェで、エロい、あの、人が集まる」
物忘れババアが炸裂してしまう。
「ハプバー?」
誰かが言った。
「そう!! ハプバー!!」
皆が笑う。
「えっハプバーって何??」
50代くらいの男の面接官が言う。

「ハプニングバーって言って、ヤりたい男女が集まるバーで、良い人がいたら、その場でできるんだよね。新宿とか五反田とかすごい」
ハプバーに行ったことのない私に代わって、「ディルドって何?」と言った女性面接官が解説してくれた。場所まで知ってるなんて、あなた絶対常連だろ。

面接官たちがきゃあきゃあと騒いで、まるで私がハプバーの人という印象が付けられてしまいそうだったので、大きな声で言う。
「で、私はハプバーとかには興味なくって、あくまでも私はジャーナリストなんで」
ジャーナリスト、ジャーナリスト。面接官が反復し、メモる。メモの必要はあるのだろうか。
「……はい。ありがとうございました、次の方」
すべての応募者に聞かれていた「過去の恋愛はどんな?」「いつから何か月くらい出演できる?」という質問が無かったので、あー、落ちたのかなと感じた。

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「お疲れさまでした。一週間か二週間以内に、合否連絡をこちらからします。」
こうして、一次オーディションはあっけなく終了した。

面接から約1時間後。駅のホームで乗り換えの電車を待っていると、あの番号から電話がかかってきた。
「お疲れさまっすー」
「お疲れ様です!!」
誘導係の男性スタッフからだった。

「面接、お疲れさまでしたあ。自信、ある?」
「えっと、全く無かったんですけど、今掛かってきたので、自信あります!」
早口のキモいテンションでしゃべってしまった。
「あっ、そう。そー、おめでとーございます」

三尾やよい

悪趣味が高じてフリーライター。エロ・グロ・ゲテモノ。アダルト系WEBコラム連載/ニュースメディア翻訳ライター。毎日がFernweh(;-;) 将来の夢はベルリンで引きこもって夜な夜なテクノ鑑賞。