旧約聖書に登場するオナンという男性が語源となったオナニー。いまでこそ街中に自慰ボックスが設置されるほど世の中に浸透しているが、昔の西洋では主の御心に反する行為として否定されていた。熱心なキリスト教徒からすれば、神が聖書で命じている「生めよ増やせよ」に反する行為であり、到底許すことはできなかったのだろう。1640年代のアメリカ合衆国コネチカット州ニューヘイブンでは、自慰した者の最高刑は死刑という法典があったほど。また、スイスの医師ティソが著書『オナニスム』で、ドイツの哲学者カントが著書『教育学』で、それぞれオナニーの有害性を主張しているように、宗教者以外にも否定されるべきものであったようだ。
そんなオナニーの否定的な意見は近代まで根強く残り続けた。

今から120年前にケロッグコーンフレークを考案したジョン・ハーヴェイ・ケロッグ医学博士もまた、ラディカルなオナニー否定派として有名。性行為が人間のさまざまな病気を引き起こすというトンデモ理論を固く信じていた彼は、結婚していた妻ともセックスを行わなかったという。そして、オナニーについても「忌まわしい行為」と言って憚らず、オナニーを含めた性行為全般を抑止するために奔走。自身が厳格な菜食主義者であり、肉食が性欲を高めるという説を信じていた彼は自然な食事を提唱するようになった。そして、博士が忌まわしいと語っていたオナニーを抑止する食品として、ついにコーンフレークを発明。現代朝食の食卓でよく見かけるコーンフレークはオナニー排斥の急先鋒だったのだ。

しかし、ダメと言われるほどにやってみたくなるのもまた真理。中世ヨーロッパの少年たちはオナニーをして精液を飛ばし合う「固まりミルク」という遊びをしていたという。厳格ぶる大人たちの目を盗み、こっそりとオナニーに興じる少年たちの姿は実に痛快だ。また、日本では13世紀の『宇治拾遺物語』に自慰を指す「かはつるみ」という言葉が登場している。僧侶たちが生涯不犯(女性と性行為をしたことがなく、これからもしない)を誓った際、ある僧が「かはつるみはいかが候べき」と青ざめながら問いかけて一同から爆笑されたという。女性とのセックスはガマンできても、オナニーはガマンできなかったらしい。

これまで否定されてきたからこそ、人間にとって大きな魅力を秘めていることが分かるオナニー。コーンフレークが世界の主食に変わったとしても、きっと根絶されることはないだろう。