一つの玩具から紡ぎだされる、女性たちの物語。新しい欲望。
多方面で活躍する作家・岩井志麻子先生による読み切り小説。

岩井志麻子の千夜玩具物語

出井奈緒だから、子どもの頃はあだ名がデイナだった。それがいつの間にかディーナになっていて、高校中退して家出して夜のバイトやりながらAV女優にスカウトされたときも、自分から芸名はディーナでいいですといった。私としては、本名でデビューしたようなものだった。どの店でもディーナで通してたし、遊び仲間にも幼なじみにも過去の男達にもそう呼ばれていたのだから。

プライベートでも仕事でも、ディーナはヤリ◯ンってことになっていた。男経験はちゃんと数えてないけど、どちらも合わせて軽く500人は超えているだろう。そんなだから、ものすごい男好きでセックス大好きと思われてしまう。実は男もそれほど好きじゃないし、セックスも一度も気持ちいいと感じたことがない。だから割り切ってのめり込まず仕事にできるし、次こそいい男やいいセックスに巡り会えるんじゃないかと明日への希望も持てるのかもしれない。

そんな私は自分でいうのもなんだけど、まだ20歳超えたばかりで今どきの可愛い普通の子に見えるから、とんでもないスカトロや拷問系には出なくてすむのに、かなりハードな企画物も嫌がらなかった。いつかは芸能界に、とか、夢見てないし。
といって大金が欲しいのでも、強い刺激を求めているのでもない。自分でもどうしたいのかわからないままに、現場では5人を超える男に輪姦されながら今晩は何食べようかと考えたり、犬にクンニされながら今日ってお母さんの誕生日だと思い出したりしていた。

今日も、午前中はイケメン男優とライトなSMやって、午後はキモい汁男優3人に疑似レイプされて、その後で打ち合わせと軽い写真撮影のために事務所に寄ったら、マネージャーにファンから届けられた贈り物をいくつか渡され、その中に大人の玩具もあった。こういうのはいろいろもらうし使ったことも数知れずあるけど、どれもまぁ普通に気持ちはいい。だけど、やっぱり夢中になれるものはなかった。

家に戻って、「ヴァギナパニック」という玩具を試してみる気になったのも、疲れているのに逆に目が冴えていたから、これやったら眠れるかなと思っただけだ。ピンクと白の丸い本体から生えているピンクの棒を膣に入れ、コートでつながっているスイッチを入れてみたら。膣ではなく、頭の中をかき回された。

演技ではいつも、もっともっとと喘いでいるけど、本気でやめてやめてと叫んでしまった。でも、スイッチはオフにしない。やめてと叫びながら、さらに振動を強くしてしまう。今日、ここにいれたどの男の物よりも本気で絞めつけながら、私が求めていたのはこれだったとわかった。こんなふうに頭が真っ白になりたかったんだ、私は。

岩井志麻子
岩井志麻子

1964年、岡山県生まれ。『ぼっけえ、きょうてえ』(角川書店刊)で第6回 日本ホラー小説大賞、2000年には同作品で第13回 山本周五郎賞。2002年、『岡山女』で第124回直木賞候補となる。同年には、『trái cây〔チャイ・コイ〕』で第2回婦人公論文芸賞、同作品は2013年に映画化。
また、近年は東京MXテレビ『5時に夢中! 』木曜レギュラーコメンテーターほか、日本テレビ『有吉反省会』への出演など、強烈なキャラクターを活かした映像出演など幅広いジャンルで活動中。