一つの玩具から紡ぎだされる、女性たちの物語。新しい欲望。
多方面で活躍する作家・岩井志麻子先生による読み切り小説。

岩井志麻子の千夜玩具物語

40を過ぎて風俗嬢だといったら、たいてい憐れみと笑いが返ってくるものだけれど。
私は心を折られもせずプライドも満たされて、風俗嬢をしている。所属しているのがSM専門だから。
普通の風俗店でも、ライトなSMオプションはある。
でも専門店を利用する客は、女を若さや容姿で選ばない。なんといっても技術重視だ。
店側も、所属する女の若さを売り物にはしない。とはいえ、みんな年齢はごまかしている。
私だって「ジーナ女王様28歳」と、ちょうど一回りサバを読んでいる。

田舎町の高校を中退し、芸能界を目指して上京してきた。
安いエキストラやエロモデルしか仕事はなく、こっそりバイトで始めた風俗が結局は本職になっていた。
若いときは、普通にソープやデリヘルやってた。年齢のことをいわれるようになってから、SMに転向した。
男もいろいろ変えたけど、今も独身。全然、みじめじゃない。
だって私は女王様。みじめにならないために、女王様になったともいえる。

女王様とのプレイを望む客は、当然M男だ。彼らは絶対、乱暴なことはしないし無礼な口もきかない。
私を女王様と呼び、ひざまずいて足の指をなめ、「お美しい女王様、この卑しい豚男に聖水をかけてくださいませ」と、私におしっこかけられて悶える。
そのとき私も、乳首を固くして股間を濡らしている。
M男のいやらしく勃起したものを挿れさせてやってもいい、いや、挿れてほしいと願う。女王様として、しないけど。

主演させるレギュラー持たせるなんてだまして、それこそ私を無料の風俗嬢扱いした芸能界の男達。
一緒に夢を追いかけようなんてささやいてヒモになったくせに、暴力をふるった自称ミュージシャンや売れないホスト。
ババア呼ばわりブス呼ばわりした客達。
M男を攻めているときは、過去の憎い男達に復讐する気分も味わえる。

今日、予約を入れてきた客は初めてなのに、私を指名してきた。店のHPで写真を見て、気に入ったという。
指定のホテルに行くと、一見すると線の細い優男が待っていた。
彼は丁寧な口調で、これを装着してほしいといわゆるペニスバンドを取り出した。

【岩井志麻子の千夜玩具物語】ジーナ女王様 40歳

「ペニックスバンド」という名で市販されているこれは、別の客にも使ったことがある。腰に巻く黒いベルトで好みのディルド、つまりゴム製の男性器を装着する。
自分に男性器が生えていると錯覚し、これで男の肛門を責めるのは、つい仕事を忘れて高ぶってしまう。
私はぴったりと全身を覆う黒いラバースーツで「ペニックスバンド」を装着し、全裸にした男を仰向けにして大きく股を開かせ、ローションでヌルヌルにしたかなり太いディルドを肛門に挿れたら。そいつの勃起したものが、ディルドに負けないほど大きくなった。
思わず挿れて、と私もスーツを脱ぎかけ、どっちが欲しいのかちょっと迷った。

岩井志麻子
岩井志麻子

1964年、岡山県生まれ。『ぼっけえ、きょうてえ』(角川書店刊)で第6回 日本ホラー小説大賞、2000年には同作品で第13回 山本周五郎賞。2002年、『岡山女』で第124回直木賞候補となる。同年には、『trái cây〔チャイ・コイ〕』で第2回婦人公論文芸賞、同作品は2013年に映画化。
また、近年は東京MXテレビ『5時に夢中! 』木曜レギュラーコメンテーターほか、日本テレビ『有吉反省会』への出演など、強烈なキャラクターを活かした映像出演など幅広いジャンルで活動中。