一つの玩具から紡ぎだされる、女性たちの物語。新しい欲望。
多方面で活躍する作家・岩井志麻子先生による読み切り小説。

岩井志麻子の千夜玩具物語

子どもの頃から、母はそんな厳しい人だとは思ってなかった。成績や試験の結果が悪くても、怒られた記憶もない。むしろ愛ちゃんのママは優しいの、と思っていた。だけどある時期から、母はある方面にはとても堅くて縛る親だと気づくようになる。ごく普通の少女漫画雑誌も、軽いキスシーンがあるだけでそのページを破り捨てられた。
遅めの初潮が来たとき、友達は「お母さんが赤飯炊いてくれた」みたいな話をしていたのに、うちの母は「それは隠すことよ」とトイレにナプキンを置いただけだった。水泳したいから友達にタンポンもらって、でも入れ方がわからないと母に聞いたら、見たことない鬼の形相で「女の子がこんな物だめ」と捨てられた。女の子の物なのに。
急激に胸がふくらんできたのを母も気づいているのに、絶対ブラジャーを買ってくれなかった。「いやらしいから」と。でも、みんなつけてるし体育のとき恥ずかしいといったら、本当に何の飾りもない無地のタンクトップみたいなスポーツブラを買ってきた。

母は性的な方面に厳しいというより、いつまでも私に子どもであってほしいのだとわかってから、私もいろいろ隠すようになった。女子校に入れられたけど彼氏もできたし初体験もしたけど、とことん何も知らない処女のふりで、子どもみたいな下着をつけ続けた。
でも彼氏に、「今どきこんな下着ありか。うちのオカンでももっと派手なのつけてるよ」とからかわれ、本当に恥ずかしかった。女子大生になって、小学生の家庭教師といった堅くて男と接触しないバイトは許されるようになると、こっそり派手な下着を買った。派手といっても可愛いレースや花柄の女の子っぽいもので、こっそり風呂場で手洗いして自分の部屋に隠して干していた。

高校のときの彼氏とは疎遠になって別れたけど、二十歳になって新しい人ができた。家庭教師をしている家のお父さんだ。不倫ではない。
離婚して彼が小学生の男の子を育てていた。彼はセックスそのものは普通だけど、私にセクシーな下着を着せて撮影するのが好きだった。もちろん、すぐ消去もしてくれる。
乳首スケスケのブラジャー、ヒョウ柄のTバック、真っ赤なレースのキャミソール、それらを身に付けただけで、私は潤った。見られていること、恥ずかしいところを撮られていること、この後の濃密な行為を想像することにも高ぶったけど、ずっと禁じられていた派手な下着への憧れ、ううん、飢えを満たされることに酔い痴れた。

一番興奮したのは、網タイツが全身を覆う感じのボディストッキング。胸と性器のところがぱっくり開いている。本来、下着とはそこを覆い隠すもの。だからこれは下着ではない。いやらしい気分になるためだけ、エロなことをするためだけのもの。着たまま乳首を吸われて挿入されると、なぜか彼の名前ではなくお母さーんと叫びたくなる。

岩井志麻子
岩井志麻子

1964年、岡山県生まれ。『ぼっけえ、きょうてえ』(角川書店刊)で第6回 日本ホラー小説大賞、2000年には同作品で第13回 山本周五郎賞。2002年、『岡山女』で第124回直木賞候補となる。同年には、『trái cây〔チャイ・コイ〕』で第2回婦人公論文芸賞、同作品は2013年に映画化。
また、近年は東京MXテレビ『5時に夢中! 』木曜レギュラーコメンテーターほか、日本テレビ『有吉反省会』への出演など、強烈なキャラクターを活かした映像出演など幅広いジャンルで活動中。